Archeologue

創刊号


2004年7月28日発行
三重大学人文学部考古学研究室・山中章研究室
Tel 059-231-9148 Fax 059-231-9148 E-mail yaa@human.mie-u.ac.jp

 斬首無惨

〜吉野ヶ里遺跡とイラク〜

首のない遺体が見つかった!

子供が子供を殺した!

一家四人が惨殺された!

・・・等々と連日のように物騒な記事が新聞紙上を賑わす。 まるで地獄絵を見るような今日この頃である。私が子供の頃、いや学生時代ですら、殺人事件が連日報道されることなど滅多になかった。 ましてやバラバラ殺人事件など。いつからこんな社会になったのか。 

 今、イラクで、サウジアラビアで、人質になった人々が首を切られ、 殺されたことが大々的に報じられている。

「だからテロリストは野蛮なのだ!」と。

もちろん「テロリスト」は主張する。

「お前達こそ無差別に罪のない子供や市民を殺している」と。

果たしていずれの側に正義はあるのか。

 日本列島で戦争が始まったのは弥生時代である。 故佐原眞(国立歴史民族館館長)さんは、弥生時代の石鏃と縄文時代のそれを比較して、 紀元前二世紀前後になると急激に石鏃(石製の矢じり)が重くなり、殺傷力が増すことを解明した。 その背後に戦争の影があると指摘したのだ。弓矢の向かう方向が動物から人間に変化した瞬間だという。 佐原さんは、考古学の究極の目的は人類の犯した戦争の悲惨さを考古資料によって示し、戦争をやめさせることだ、とした。 残念ながら佐原さんの死後、積極的に「反戦」を語る考古学者は少ない。

 佐賀県に吉野ヶ里遺跡という有名な弥生時代の遺跡がある。 全体が堀で囲われ、内部には王墓といわれる墳丘をもった墓があるほか、物見櫓や多くの人々の住居跡が知られている。 まるで『魏志倭人伝』の世界を見るようだとして国の史跡として保存・活用されている遺跡である。 堀の外には王家以外の人々の墓域があり、数百の甕棺墓が整然と並ぶ。その中に不思議な遺骨が発見されている。 頭蓋骨のない遺体である。首の骨の途中から無くなっているから斬首されたものに違いない。 弥生時代になると全国各地から矢や槍の刺さった遺体が多数見つかる。戦死者の遺体だと考えられている。 弥生時代以前に、日本列島のいかなる遺跡からも、この様な無惨な遺体は見つかったことがない。

 既に二千年もの昔から日本人同士が戦争を繰り返し、 首を切って持ち帰るという残酷な殺戮を行っていたのである。○○民族や△△宗教が野蛮なのではない。 戦争が日常では考えられない「異常」を引き起こしたのである。

日本列島で繰り返される「事件」の数々も、戦争の論理と同じ、 他者の存在を理解し認め合おうとする気持ちの欠如が引き金になっているように思える。 実利を求め、効率を優先する社会に、他者の心を思いやるゆとりを持てと言う方が無理なのではなかろうか。

 だからといって、「縄文時代へ回帰せよ!」などというつもりは毛頭ない。 体力に劣り、病や傷に若くして死を迎えるのが当たり前の縄文社会が「優れている」とは到底言えないのだから。 とするならば、この辺でそろそろ戦争のない社会を作るにはどうすればいいのか、真剣に考える時機に来ていると思う。 このままでは地球上に首のない遺体が散乱することになる。首のない遺体と対面するのはもうたくさんである。

(佐賀県教育委員会 『吉野ヶ里遺跡 発掘調査概報U』 1994年 より複写)