ながーいウンコ
〜トイレにみる食習慣〜



 今私は中国の古都西安にいる。昨春発掘調査をした東龍山漢墓の遺物を調査したり、関連遺跡の調査事情を視察するためである。 しかし十年ぶりという寒波と大雪の襲来で外は凍り付き、ほとんど出かけることができないでいる。 このため残念なことに食事はホテルでとることが多くなり、つい洋食や和食になる。

 中国と日本の食習慣で最も大きく違う点は、豚と魚と野菜である。豚肉を大量の野菜と煮込み、炒めて食べることが圧倒的に多い。

 食べたものは消化し、排泄しなければ人間は生きていけない。長く懸案だったトイレの遺構は意外なところから見つかった。 福岡市にある鴻臚館跡である。かつての西鉄ライオンズのホームグランド・平和台球場の位置こそ遺跡の中心部だった。

 ある年の調査で連続する長楕円形の穴が見つかった。幅1メートル前後、長さ四メートルほどの何の変哲もない穴だった。 掘り進むうちに異変に気付いた。

 普通の穴に比べて埋めている土が異様に黒いこと、土の中にやたらと木ぎれが入っている上、昆虫の死骸や植物の種が多いこと、 幅に比べて三メートル以上と深いこと、などである。前後に並んで発見されたもう1基の穴はやや小形だが、ほぼ同じ状態であった。 底まで掘り挙げたときには担当の山崎純男さんの作業服は真っ黒だった。

 気になるので、調査後、採取しておいた土と種や昆虫を分析に出した。結果を見て驚いた。 土の中には大量の寄生虫卵の化石が含まれていたのである。 昆虫も糞便などによるものが多い。 寄生虫もほとんどが人間に寄生しているものだという。中でも特徴的なのはブタを介して伝染した寄生虫が多いということである。

 「まさか?!」、これが日本初のトイレ跡発見のエピソードである。 植物の種は消化されずに排泄された瓜などであり、木ぎれは古代のトイレットペーパー・ 籌木ちゅうぎであった。 鴻臚館は外国人、当時は中国や朝鮮からの使節が宿泊した施設である。ブタの寄生虫はこれが、彼らのトイレであったことを教えてくれた。

 縄文時代の遺跡から出る糞石を研究した国際基督教大学の故千浦美智子さんは、毎朝家族やペットのウンコを記録し続けた。 糞石の形からウンコの主を探り当てるためだ。中国に来て毎朝思うことは、ウンコが長く、多いことである。臭いも随分違う。 所変われば品変わる、である。大量の野菜を食べるからだろう。

 「臭い物に蓋」がいかに誤った行為であるかは、この間の銀行経営や放漫行政が暴露した。 正月早々尾籠な話であったが、毎朝、自らの排泄物をじっと見つめて、その健康状態をチェックすること、 「臭いもの」に目をつぶらずじっくりと分析すること、これがいかに大切か最早言うまでもなかろう。

(2003.1.19 伊勢新聞掲載)


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