伊勢・大阪・ロサンゼルス
〜なぜ私たちは都市に住むのか〜



 今夏1ヶ月余りアメリカの5大学を回って諸分野の研究者と交流する機会を得た。 古代を中心として研究している私がなぜアメリカに行くのか?会う人みんなから浴びせられた疑問であった。 唯一の回答が南カリフォルニア大学で進められているロサンゼルスと大阪の比較都市研究の成果に学ぶことであった。 成立して200年にも満たないロサンゼルスと、 1300年以上の歴史を持つ大阪を比較して都市成立のメカニズムや都市の抱える問題を比較検討してみようというのである。

 日本の都市は弥生時代に成立したといわれる。 佐賀県の吉野ヶ里や奈良県田原本町の唐古遺跡、大阪の池上曽根遺跡、愛知県の朝日遺跡はその典型だとされる。 これらの遺跡は弥生時代の終わりと共に姿を消す。古墳時代になると全国の遺跡の中で都市らしい遺跡が見つからないのである。なぜか?

 ところが奈良時代になると中国にならった巨大都市空間が成立する。碁盤の目のような町が設置され、中央北端には宮殿や官庁街が設けられる。 当初は貴族や中堅官僚しか住まなかった都に次第に農民や漁民が居住させられるようになる。もちろん彼らの仕事は、米作りでも魚取りでもない。 様々な肉体労働である。それでも毎日食料が支給され、一定程度の「現金」が手に入る都は田舎よりましだったのか、 定められた年限が過ぎても次第に彼らはふるさとへ帰ろうとはしなくなる。 中には技術を身につけて定住する者も出てくる。これが完成した日本の首都平安京の顔であった。

 三重県にはかつて宇治山田という江戸や大阪・京都と肩を並べる巨大都市が存在した。江戸時代を通じて伊勢神宮に参る人々でごったがえした。 しかし明治に入り伊勢参詣の波が収まると共に都市にかつての勢いはなくなっていった。

 ロサンゼルスは19世紀のゴールドラッシュによって生まれた都市である。 その後豊富な海洋資源や石油の産出、映画産業の定着などで、西海岸の中心都市として成長する。 しかし今、各種産業が斜陽化して、財政赤字は四兆円にふくらみ、都市機能にひずみが生まれつつある。 その再建をターミネーターに委ねようとするのだが果たしてどうなるやら。

 破綻する都市が認められる一方、世界的には都市は増大し続けている。人が都市に住む理由は何なのだろうか。 現代都市には犯罪は多く、人間関係は複雑である。自動車の出す排気ガスは肉体を冒し、ストレスは溜まる一方である。 にもかかわらず人は都市へ、都市へと集まる。この勢いが地球全体に広まれば人類は滅びてしまう。 都市と農・漁・山村の調和、その課題解決にはいくつもの事例を刻んだ世界規模での都市比較研究が欠かせない。 アメリカで再認識した研究テーマである。

(2003.10.16 伊勢新聞掲載)


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