1700年前の津
〜寒かった伊勢湾?〜



 現在、昨年の夏に発掘調査した三重大学校内の遺跡・鬼が塩屋遺跡の整理作業を進めている。 主に出土遺物の分析であるが、いくつかの新しい資料が見つかったのでその一部をご紹介しよう。

 発掘調査では、地震を示す液状化現象の跡が見つかったことは以前にも述べたことがある。 調査は時間が限られていたので、その土砂を現地で丁寧に観察することができなかった。 そこで、土のう袋に入れて持ち帰ったのである。その数二千余になった。 土の中にどんなものが含まれているのか、様々な分野の方々にお願いして分析をするのである。

 その一つ昆虫の分析は、愛知県埋蔵文化財センターの森勇一先生にお願いし、 三重大学の学生を指導頂きながら気の遠くなるような作業が進行しつつある。 まだ始まったばかりであるが、いくつか興味深い資料が発見されている。

 日本のシジミには淡水に住むマシジミと琵琶湖のみに生息するセタシジミがいるが、大和シジミが発見され、 調査地が淡水と海水の混ざる汽水域だということが判明したのである。 現在は大学の南を流れる志登茂川が、弥生時代の終わりには大学校内一帯を流れていたのである。 これらと一緒にアオムシモドキも発見されている。海浜部に生息する昆虫だという。 まさに志登茂川が伊勢湾に注ごうとするそんなところに大学は位置しているのである。

 だからといって、人の誰もいない浜辺ではない。マグソコガネなどが見つかっているので、近くに人間や家畜のいる集落があったことが判るという。 事実、持ち帰った土砂の中には弥生時代後半の土器や古墳時代初めの土器が大量に含まれている。 志登茂川の河口部付近で魚取りや貝拾いを行っていた鬼が塩屋の人々が、その行き帰りにいらなくなったゴミを捨てていったのであろう。 土器などの容器や道具だけではなく、貝殻や魚の骨も捨てていったに違いない。 時にはこの場でちょっと用を足していった輩もいるかもしれない。すごい悪臭を放っていた可能性も高い。 そんなゴミの山だからこそマグソコガネが生息するのだろう。

 最新の情報では、現在なら東北地方にしか生息しないゲンゴロウの仲間ではないかと思われる昆虫の羽も見つかりつつある。 これが確定すると千八百年前の津市一帯の気候が今より3〜4度低かったことになる。 まだまだ土砂の中には様々な情報が隠れている。人間の糞便も混じっている可能性は大で、医学部の先生のご協力を得て分析を進めるつもりである。 うまくすれば鬼が塩屋の人々が、どんな調理方法で食生活を送り、どんな病気に冒されていたかも判るはずである。 今、汚れた土のう袋の中に注目が集まっている。

(2004.2.15 伊勢新聞掲載)


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