バーチャルミュージアム
〜伊勢湾博物館の夢〜



 三重大学では今、バーチャルミュージアム(仮想博物館)を作るにはどうしたらいいのかという実験を試みている。 これまでの博物館は「物」や「事象」を現物や写真、図、表などを駆使して展示、説明し、 その由来や背景などをわかりやすく解説しようとする施設であった。 しかし近年のコンピューター技術の進歩によって、本物そっくりな「人間」や施設を作り、見せることが可能になった。 若者たちが熱中するゲームの多くは、新たに創造された世界に、未知の「人間」を配し、恋愛し、戦争させて戦い、楽しむものである。 バーチャルミュージアムとは、歴史上の事件、事象を、仮に想定した道具や風景或いは資料からでは判明しない人間、動物などを配置して再現し、 その内部に入り込んで当事者の感覚を体験し、想像する博物館である。

 バーチャルと言っても、ゲームなどの空想世界とは異なり、あくまで歴史的に存在した「物」を素材にして仮想体験するのである。 たとえば、昨夏、三重大学校内から鬼が塩屋遺跡が発見された。現地説明会やオープンキャンパスなどで三〇〇人ほどの方が見学された。 しかし、残念ながら遺跡は新設された建物によって完全に破壊され、今はもう見ることができない。 現地を見たこともない人々に遺跡をいかにわかりやすく伝えていくのか、大きな課題であった。

 遺跡が最も盛んに利用されたのは古墳時代前期、今から一七〇〇年前である。 人々は魚取りを生業とし、ヒサゴ壺という特異な土器を製作して独自の祭りを主催していた。 持ち帰った土砂に残されていた昆虫遺体の一部から往時の寒冷な気候も判明した。現地一帯には遅くとも八〇〇年前には大地震が発生していた。 この様な学術成果をどうしたら一般の方々にわかりやすく、現実感を持って伝えることができるのか。

 バーチャルリアリティーの技術が、有効なのではないかと考えたのである。 近年、写真を多方向から撮影しておくと、遺跡から見つかった穴や溝、遺物を立体的に表示することが可能となった。 これを利用すると、平面的な写真以上に現実感を持って遺跡に接することができる。 発掘調査開始時点から同じ地点で写真を撮っておけば、 遺跡の発掘に合わせて新しい時代のものから古い時代のものへと順番に各時代の人間の営みを立体的に示すことができる。 これを資料から判明する人々の生業、生活、信仰等の立体図像と重ねて表示すれば、具体的に遺跡の往時の様子を再現することができるはずだ。

 まだまだ先は長いが、ドラえもんの「どこでもドアー」は一種の理想像である。いつかのび太と共に自由に歴史空間を飛び回ることができないか。 そんな夢を追いながら実験は続く。ささやかな実験過程を三重大学付属図書館で4月25日まで公開中である。

(2004.4.18 伊勢新聞掲載)


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