出前授業
〜新しい大学像のために〜



 昨年末に二つの高等学校に招かれて「授業」を行った。 大学進学を控えた高校生に大学ではどのような授業を行っているのか、大学に求めるべきものは何かについて話をした。 大阪府立大手前高等学校では「比較考古学の旅」と題して古代朝鮮の国・高句麗と日本の都や関を素材に両国の違いについて話をし、 その後発掘現場で体験発掘にも挑戦してもらった。 三重県立川越高等学校では「木簡解読」をテーマに遺跡から発見される木簡の解読がいかにして行われるのかについて、模擬体験も含めて講義した。

 今、大学の文化系学部では目的を持たないままに入学する学生が増えていて大きな問題となっている。 偏差値だけで大学を選(ばされた?)んだ結果、自分のやりたいことを教えている先生がいない大学に入ったり、 それすら確認することなく入った学生が増加している。 このため、一年生の後半から二年生にかけて不登校になったり、クラブ活動に没頭して授業をおろそかにする学生が目立つようになる。

 出前授業の目的に「動機付け」がある。大学の魅力を伝え、動機の発掘を行うのである。 私が大学で行っている考古学は、高等学校の教科書では原始・古代に少し登場する程度で、 考古学と言えばピラミッドの発掘と思っている学生が大半である。新入生はよく「先生はエジプトに行かへんの?」と尋ねてくる。 「あそこで調査をしている日本の大学は早稲田か筑波くらいや」と言うと学生はみんながっかりする。 もちろん両大学ともピラミッドを発掘しているのではなく、その周辺に展開する神殿などの調査が主体である。 エジプトでの調査は過酷で、地中海に面するアコリス遺跡の調査に参加している後輩の話だと、風呂にはいるのはまれで、 食べ物があたって激しい腹痛に見舞われるのは日常茶飯事だという。アラブ社会が緊張するとたちまち軍隊に守られての調査になるらしい。 質問に来る学生にそう告げると尻込みをして帰ってしまう。 こんな学生をなるべく減らし、明確な目的を持って大学に来てもらうために率先して高等学校に出向いているのである。

 大学で行う研究の現状や専門性の魅力を伝えることも出前授業の目的の一つである。 高等学校では聞けない専門的で、深く掘り下げた授業を受けて、高校生達の多くは、大学教育の奥の深さを感じ取ってくれる。 今回も、川越高校のすぐ近くに久留倍遺跡という素晴らしい遺跡があることを話すと、みんな身を乗り出して聞いてくれた。 下校途中に遺跡へ立ち寄ってみようと言ってくれた生徒もいた。

 昨日からセンター試験が始まった。間もなく受験勉強から解放され、大学入学が決定する。 彼らの期待を裏切らない教育ができるか、大学教官の一人一人に問われている問題でもある。

(2005.1.16 伊勢新聞掲載)


Archeologueに戻る→
HP巻頭に戻る↑